脳梗塞の治療 ~t-PA静注療法について~
皆さんはt-PA(ティーピーエー)という薬を聞いた事がありますか?正式名称は組織型プラスミノーゲンアクチベータといいますが、血栓(血の塊)を溶かす薬です。日本では2005年10月に認可された比較的新しい薬です。この薬は今までの血栓を溶かす薬と比べ、血栓に対する選択性が高いため強力に血栓を溶かします。その為、脳が完全に死んでしまう前に血栓が溶かせれば、後遺症が無く、もとの生活に戻る事が可能です。ただし、強力であるがゆえに副作用も強力です。また、脳細胞が死んでしまう前に血流が改善しなければ意味が有りません。死んでしまってから血流が再開しても脳細胞は生き返りません。そればかりか、脳細胞ともに死んでしまった脳血管が再開した血流によって破れ、脳の中に出血してしまう事もあります。出血が多量な場合、生命に関わる事も有ります。
〔t-PA施行条件〕
- 4~5時間以内に投与可能な場合。
- 頭部CTで出血が無く、尚且つ、画像上広範囲な脳梗塞の所見が出現していないこと。
- 1ヶ月以内に脳梗塞を起こしたり、3ヵ月以内に重篤な脳脊髄外傷あるいは手術を行っていないこと。
- 21日以内の消化管あるいは尿路出血を起こしていないこと。
- 14日以内の大手術あるいは頭部以外の重篤な外傷を起こしていないこと。
- (※ その他にも元々の病気や内服薬の関係でt-PAを行えない場合があります)
こういったことをきちんと確かめるためには、十分な病歴聴取をはじめ、頭部CTを行ったり、採血の検査結果を待ったりするなど時間が必要であるため、少なくとも発症から、2時間以内に来院して頂けないと、現実的にはt-PA投与は不可能です。
〔助かるために出来る事〕
- 脳梗塞を疑ったら、なるべく早く病院に来ること。
- 迷わず救急車を呼びましょう。家族を待ってからなんてでは遅すぎます。(下図参照)
- 患者さん本人の既往歴(過去、もしくは現在罹っている病気の内容)を把握しておくこと。
- 現在の内服薬(お薬手帳があれば尚よい)を確認。必ず病院に持参すること。
〔シンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS)〕
顔のゆがみ(歯を見せるように、あるいは笑ってもらう)
- 正常-顔面が左右対称
- 異常-片側が他側のように動かない。下図では右顔面が麻痺している
上肢挙上(開眼させ、10秒間上肢を挙上させる)
- 正常-両側とも同様に挙上、あるいは全く挙がらない
- 異常-一側が挙がらない、または他側に比較して挙がらない
構音障害(患者に話をさせる)
- 正常-滞りなく正確に話せる
- 異常-不明瞭な言葉、間違った言葉、あるいは全く話せない
解釈:3つの徴候のうち、1つでもあれば、脳卒中の可能性は72%である。
〔シンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS)〕正常(左) 異常(右)